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2007/01 冬眠するおじゃま虫、ヘクソムス(カメムシ)のこと

提供:ミヤペディア
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 朝晩は「スパレル/しばれる」は、外に「フテナゲドイダー/放り投げておいた」バケツに「スガ/氷」が張るは、「モリョーガ/盛岡」ほどではないが雪も降ってどこをどう見回してもすっかり冬だ。去年は里を「ハッサリッテ/走り回って」人騒がせだった山の熊さんたちも今頃は冬眠してるんだろうなぁ…。とちょっとばかりメルヘンチックになるけれど、冬眠や越冬は何も熊ばかりじゃない。天井の梁の「カゲコ/陰」に一塊りになっている「ニジュウホシテントウムシ」、仏壇の位牌の後ろ辺りに「スーッカゲル/巣をつくる」「ジバチ」や「トックリバチ」、そしてそして極めつけは普段はあまり開閉しない押入の上の天袋にびっしり並んだ「カメムシ」の大群。これら越冬型の昆虫にとって人の住まいは厳冬を過ごすには快適なシェルターなわけだ。さて、今月は越冬するおじゃ虫の中でも強烈な臭いで人を困らせる「カメムシ」について詳しく見ていこうと思う。

 カメムシの呼び名は地区によって多少違いがある。まず「ヘップラ」あるいは「ヘップラムス」と呼ぶ場合がある。これは「ヘッ」という部分が「屁」を意味しており「チョースド/触ると」臭い屁を「タレル/出す」という意味だ。次が「ヘッタレムス」だ。「ヘッタレ」とは辺り構わず放屁する人のことで、これを「ムス/虫」として表現したもので、屁が臭い虫というような意味になる。最後が「ヘクソムス」だ。これはもう「屁」も「糞」も混ぜて究極的に臭いという意味の呼び名だ。まれに「ヘッピリムシ」とちょっとお上品に呼ぶ場合もあるが不思議と宮古弁らしくない。

 さてカメムシは長2~3センチぐらいでお馴染みの茶色のものから緑色のもの、黒にオレンジの縦筋の入ったいかにも怪しいものなど、世界中に5万種類はいるらしい。そのうち日本には約400種類がいるとされる。カメムシは単独ではなく比較的集団行動をとるため越冬時などは「スマコ/隅っこ」にちんまりと重なっていたりする。これを駆除しようとホウキなどで脅かしたりすると、カメムシは捕食者に対して自分が有害生物であることを知らせるためあの「カマリ/臭い」を出してくるわけだ。

 あのカメムシの独特の「カマリ/臭い」成分はtrans2(トランス2)hexenal(ヘキセナール)という化学物質らしいが、なんとこの成分は中年男の「おじさん臭」の成分に非常に酷似しているという。男は40を過ぎると新陳代謝においてそれまで作っていなかった脂肪酸を作るようになってそれを皮膚表面にいる細菌が分解して独特の「カマリ」を醸し出すというのだ。この成分がtrans2(トランス2)とnonenal(ノネラール)という化学物質らしくカメムシの悪臭の従兄弟のようなものだという。おじさんも風呂にも入らず着替えもせずいると最後には目に「スモール/しみる」カメムシの「カマリ」のようになるというわけだ。

 虫の中には人を刺して血を吸ったり、穀物や立木を「クイズラガス/食い荒らす・散らかす」ものや、見た目が「キヘーガワルガッタリ/気持ち悪かったり」、大型昆虫の幼虫に寄生するなど、不気味かつ特殊な形態をもつものなど、人に嫌われがちなものもいるがカメムシに関しては、あのいかつい尖った両肩をのぞけば見た目に関しては問題ないわけで、とどのつまりあの独特の「カマリ」さえなければ別に害虫というほどではない。しかし、洗濯物に混じって取り込まれて洗濯物があの「カマリ」だらけになったりしたら誰でも閉口する。ちなみにカメムシは殺虫剤にも強いうえ、瞬殺でない限り呪いのように「カマリ」が残留する。確実に駆除するなら、一匹ずつ専用の割り箸でつまみ取り「マジッ○リン」などの洗剤溶液に入れて息の根を止めるのが無難らしい。

 最後にカメムシの小話を。ある人が人里離れた「サピケダ/さびれた」山村で「デッツマッテ/出したくとも出せない・便意」しまった。仕方なく最後の民家と思われる家の前へクルマを止めて事情を話すと快く外便所へ案内してくれたのだが「コレー、オモゼンセ/これをお持ちください」とホウキを渡すではないか。「ハァ?ナンデゴゼンスペェ?/はぁ?何に使うのですか?」と訪ねると「ベンゾサイゲバワガレンス/便所へ行けば判りますよ」と笑う。便所の近くでおじいさんが薪を割っていた。「コドスハ、イッツモヨッカ、イッペーデネンス、アダリドスダァーベーガネェ/今年はいつもより多くてね、当たり年ですかねぇ」と笑う。なんのことかわからなかったがとりあえず便所の戸を開けた…。そこには節分で部屋中に「カラマメ/落花生」を撒いた時のように狭い便所の足場に大量のカメムシが散乱し、天井の裸電球付近には無数のカメムシが塊となってへばりついているではないか。すでに便所は通常の便所らしい臭いではなく「カメムシ臭」で充満している。こんなカメムシがポタポタと落ちてくるような便所で「コッコマッテ/しゃがんで」用を足す勇気などない。そして持たされたホウキがカメムシを掃き出すためのものと理解した時にはあれほど「デッツマッテ」いたのに、体内の塊はひっこんでしまったという。

懐かしい宮古風俗辞典

【なもみ】

 正月明け、たるんだ気持ちを引き締めるためやってくる来訪神。秋田のナマハゲの宮古版。「なごみ」と呼ぶ場合もある。

 正月をぬくぬくと過ごし「モモタ/太股」の皮膚に「モーコ/火斑」が出るまでコタツに入って怠けていると「泣くワラスはいんねぇが」「のんべぇオヤジはいんねぇが」とその怠け根性をたたき直すため恐ろしい「ナモミ」がやってくる。これは有名な秋田の「ナマハゲ」や北陸の「アマメハギ」三陸町の「スネカ」と同様の鬼の格好をした春の来訪神だ。元来百姓や漁師の足は働けば働くほどゴツゴツしているのに、足の裏の皮が柔らかくなり股に「モーコ」が出来るとは何事だ!と来訪神は怒りその皮を剥ごうとするわけだ。「ナマハゲ」は足の生皮を剥ぎ、「アマメハギ」は甘皮を剥ぎ、「スネカ」は脛の皮を剥ぐ。みんな共通して包丁を持っていて「生」「剥ぐ」「脛」などが転化した名前になっている。宮古の「ナモミ」も「生皮」の「ナ」であり「モ」は「モーコ」あるいは「毛」という意味があると思われる。ちなみに植物にはオナモミというキク科の帰化植物があり、漢名は「蒼耳(そうじ)」和名は「奈毛美(なもみ)」だ。名前の由来は蛇に噛まれた時にオナモミの葉を揉んで傷口につける処方が「雄生揉」となったという。オナモミは稲作とともに大陸から日本に入った古い植物で、春の来訪神「ナモミ」とどこかでつながっているかも知れない

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