大通りの思い出

常磐座通りの思い出　映画館を営んでいた中居善助氏が語った思い出

末広町と大通り4丁目の一部からなる歓楽の街、第二常盤座通りは昔、田圃の中だった。私は昭和8年の三陸大津後の7月、鍬ヶ崎上町の有楽座を買い受け現在地に移築して映画館第二常盤座をはじめた。紅灯遊里賑やかな鍬ヶ崎からたとえ宮古駅が開通するとはいえ、田圃の中に映画館かと笑われた。 第二常盤座の周囲は中唯（ナカタダ）の石炭置場とそば屋（中華そば）のトキワ（現関根医院附近）料亭・嘉久扇（べにや電気部）と、料亭・鈴亀（旧公楽パチンコ）だけが、ポツンと建っていた。

開館しても田圃の中の映画館はお客の入りはなく、暑いときだったから映画の光に迷い込む昆虫類が大入満員、蛾が襟元に落ちたり袖をまくった裸の腕にからみついては、映画見物の興味もどこへやら。ホタルがポヤッと光りながら劇場の中を優雅に飛びまわった。窓に腰掛け涼みながら観覧する客もあった。騒音公害などと騒ぐ時代でなかったから、開け放した窓からガンガン音楽も鳴れば劇の台詞も外にもれた。田圃の中から窓越しに無料で映画も見られる始末だった。

昭和19年3月12日、春の大雪で宮古は被害を受けた。三井木船（旧河南中一帯）も、島屋百貨店（現宮古信金本店）も、第二常盤座も雪でつぶされた。 第二常盤座通りは今は宮古の歓楽の街である。この通りの東側末広町角は服地のモリエ、通りに面して飯岡女学院、間瀬自転車店、鈴木理容、キャバレーモンブラン、パチンコ公楽、エビアン、横丁に曲がって奥の角が福島湯、向かい角がモンマルトル、隣が可否茶店、八千代、次は末広写真館で角がボンボンパチンコ、二階がコンパ、隣が音部屋食堂、並んで小林歯科と菅原時計店に宮古土地、刈屋美容院にみどり薬局。対向いがとっとり理容、バーエデン、マノン、スイングが軒を並べ、食堂園、第二常盤座を曲がると関根医院、向いが青い灯赤灯のグリーンハウスで、バーいさり火、ふじ、都、歌むら、はな、酔月、おしどり、華厳、シェーン、バーV、青い森、志津、ヴィクトリア、バーシルク、コミックなどの歓楽の秘境。べにや駐車場をおいて、佐々木クリーニング、通りに面した角がべにや電気部、隣が長崎屋食堂、その隣が白土魚店、筑前時計店に田中美容、そして末広町にまたがる角の店が小本屋支店。

第二常盤座通りを一周してみると、こんな賑やかなよい店が揃っている。お茶を飲み、パチンコを楽しみ、映画を観て、頭を刈り、髪を結い、写真を撮る。医者に診察してもらい、歯を大事に、薬を買ったり、魚を買い、クリーニングを頼んだり、自転車やおしゃれな服を買い、女学院で勉強して食堂でおいしいものを食べ、夜ともなれば、赤い灯、青い灯の下でお酒を飲めるサービスの街歓楽の街なのである。

古老が語る大通り　大通でとんかつ店を営んでいる細川三郎氏が語った思い出

私は、大通り1丁目にとんかつを専門とした店を出している。しかし、その以前は、八幡沖5地割に錦水（きんすい）という料飲店を営業していた。はじめたのは昭和8年3月の三陸大津波の後だった。1丁目と2丁目が向かい合って大通りとなっているその角を曲がって宮古消防署に向かうその通りにムラカミ自転車店と料亭・沖が並んでいるが、私の店は丁度その向かい辺りだった。

店をはじめる当時は、山田線が川井まできており、宮古駅開通を目前に、鉄道景気や津波復興のちょっとした景気も出はじめていた。その所に目をつけ新開地として建設中の八幡沖に店を構えた。

八幡沖の錦水は、一年余りで八幡通りに移った。太田肉店のところだ。隣は高橋カメラ店で、以前はカフェ・駒鳥だった。そこから同じ通りの向い角、旭硝子店の所に移り、料亭・錦水とカフェ・錦水を経営した。

昭和23年、アイオン台風の大洪水で大きな被害を受け頓挫した。再建の場所は大通り4丁目の料亭・卓田から横に入った所でここで、とんかつを専門店として営業を再開した。料亭から専門店に切り替える時は、友人たちから「専門店でやっていけるか」などと心配されたが、岩泉や盛岡のお客から宮古の名物は「とんかつ」だなどと言われ、お世辞だとわかっても働きがいがあった。

八幡通りは新住所の変更で大通りとなった。私が住み着いた頃は、向町から真っすぐに八幡通りが宮古駅予定地に向って整備されたが、その道路は料亭・卓田あたりで行き止まりだった。あとは埋め立てた土盛りが凸凹で草ぼうぼうだった。末広町から八幡様に行く曲がり道には、水道のボーリングの水が吹いていた。

八幡通りの入口というか向町から曲がると、角は料亭・吉野屋で、続いてカフェモンパリ、カフェ・外交などが立ち並んでいた。そこには田町が南に向って突き当たっていた。道幅は車が1台やっと通るくらいだった。

住所変更で、八幡通りだけではなく、幾久屋町と言われた地域は大通り一丁目に、宮古駅前東から末広町南側の八幡沖が大通り4丁目に、篠田町が大通り3丁目に、八幡通り南側が大通り2丁目にと区域が広くなった。

大通りは、今では末広町、中央通りに次ぐ立派な商店街になった。変わらぬのは、はじめの新開地的な特徴だった飲屋街がそのまま根付き、喫茶、バー、サロン、キャバレー、食堂、料亭など市内でも最も多く集中した。

さらに今では医療機関がこの地帯に集中している。1丁目では小野寺医院、小野寺歯科、清水整骨院、伊藤医院（耳鼻科）、後藤医院、関歯科、2丁目には村井産婦人科医院、石川整形外科医院、河原崎歯科、3丁目では沢井外科医院、四丁目には小林歯科、関根医院、湊谷医院などが集中している。

私の住む元の八幡通り商店街は、駅近くには中屋石油、中屋商店、庄内商店、山田屋旅館、別館、旭硝子店、菊清油店、イトウヤ旅館、サンヨー研究所、田代宝飾店、高橋カメラ、太田肉店などがずらりと並んでいてよい街並となっている。