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2014/02 山田町境田町の石碑群

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 昨年の11月号特集にて『震災と山田町』東日本大震災で大きな被害となった山田町を中心に紹介した。山田町と宮古市は隣り合っており同じ沿岸経済圏を有し、現在こそ行政は違えど歴史的にはふたつのまちは人やモノの行き来があった。みやこわが町が創刊した当初も、タウン誌の前身であった新聞媒体が山田と宮古を扱っていたことから、再三にわたり山田での広告掲載店や購読を試みたようだが、本誌タイトルに『みやこ』の冠がついていたこともあり山田での営業は実現しなかった。しかし、この歴史的大災害を受けて、今後沿岸市町村は自己の利益や経済のみを求めるのではなく、沿岸がひとつの自治体として繁栄する方策を構築しなければならない時期にきていると思う。そんな未来に向かって本誌が小さな渡し船になれれば幸いと考える。そんなわけで、今回の石碑順禮は嗜好を変えて被災した山田町の石碑を紹介しよう。

 写真の石碑は境田町ドラックストア裏附近の空き地に集められた石碑だ。これらの石碑は震災前もこの周辺に建っていた石碑で、震災により倒れたり台座を失ったものを再度集めたものだ。石碑が置かれている場所は藩政時代、山田町から南下する大槌通の旧浜街道があった場所で、石碑群から織笠方面へ向かう峠は三本松と呼ばれ江戸宝暦期に牧庵鞭牛和尚が開削したという峠だ。そんな経緯もあり旧浜街道沿いには小祠などの信仰媒体や石碑群も多く写真の石碑群もそのような歴史背景のもと、当時の山田村の南の塞ノ神として建立されたものだろう。今回は約10基ほどの石碑の中から特徴のある数基を紹介する。石碑は横倒しになっており物によっては側面や背面の文字は確認出来ず、また、津波による破損もあり年号等は肉眼で読める範囲での紹介となる。

 石碑群に向かって左端の石碑は下部が土中に埋まっており、津波でも動かなかったと思われる。中央に旧字体で参宮順禮、右に当村安全、左に文政七甲申二月とある。次の石碑は横倒しになっている神社拝礼塔で中央に巌鷲山、右に早池峰山、左に紫波稲荷とあり側面に当村安全と十数名の連名がある。次の石碑も、中央に巌鷲山、右に早池峰山、左に志和稲荷とあり下部に「合塔」あるいは「合給」とある。合塔なら三社を合わせて祀ったという意味で合給だと三社を合わせ給うという読みになり若干意味が異なってくる。側面には維時弘化乙巳とあり弘化2年(1845)であることがわかる。次の石碑は年代不明の庚申塔、次の石碑も前出の石碑同様神社拝礼塔で、中央に巌鷲山大権現、右に早池峰山、左に志和稲荷とある。次の石碑も同様の拝礼塔で、中央に巌鷲山神社、右に早池峰山社、左に紫波稲荷社とある。次も同様の拝塔で、巌鷲山、早池峰、志和稲荷が刻まれる。

 これら石碑にある巌鷲山とは岩手山のことで残雪の頃に山腹に大きな鷲が翼を広げるような模様が現れることから巌鷲山と呼ばれる岩手山の別名だ。。早池峰山は大迫、遠野、小国などで古くから信仰の山として崇められてきた霊峰で岩手を代表する修験の山だ。志和稲荷は石碑により志和・紫波と二種類の文字で表される紫波町の神社で藩政時代以前から信仰されてきた古い神社だ。一説によれば源頼義が安倍氏を追討した前九年の役(1051年~)の戦功を祈願するため勧請したとされ、その後南部氏が庇護し、維新後は県社となり現在に至る。

 次の石碑は上部に阿弥陀如来や千手観音を意味する梵字キリークがある庚申供養塔だ。右に文化四年、左に二月吉祥日とある。次の石碑は巌鷲山ではなく巌手山神社と刻まれた近世の神社拝礼塔だ。次の石碑も拝礼塔だが岩手山関連ではなく海に関係した神社に対しての拝礼塔だ。中心には塩竃神社、右に尾崎神社、左に黄金山神社とある。これらはいずれも海や岬に関係した神社で、特に尾崎神社は釜石、黄金山神社は金華山にある神社だ。これらは海関係の仕事をする人々に絶大な信仰力を集める神社で大漁祈願や海上安全の神でもある。右に明治十一年、左に八月吉日の年号がある。次の石碑は大型で中心に法華経のお題目南無妙法蓮華経が独特の書体で刻まれている。右に明治三十一年の年号があり左に一段彫り下げた意匠で海上安全、下部や題目横に多くの連名と経文がある。次は文化八年の馬頭観世音、金比羅大権現、庚申供養塔と並んでいる。この他に舘下庄治郎、白野良助と読める花崗岩の石柱が二本ある。これらは神社境内などに建立した手水鉢や石段建立等を奉納した人物名と思われるが詳細は不明だ。

 これら石碑の年代は文化年間のものが多く、幕末の文化文政と呼ばれる幕末の頃に建立された石碑群であろう。また、巌鷲山、早池峰、志和稲荷関係の拝礼塔が多いのも特徴だ。藩政時代の山田村においてどのような信仰媒体が盛んであったか、どのような人物がそれらを牽引していたかなどを調べるのは今後の課題であろう。

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