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2013/03 雪降りの朝は憂鬱

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 野菜の高騰が続き、例年になく雪が多い気配が濃厚な今年の冬だが、これからやってくるこの地方特有の春のドカ雪はほどほどにしてもらいたいものだ。昔から雪が降って喜ぶのは「ワラスガドー/子どもたち」と犬とスキー場ぐらいなもんで、降る量や時間にもよるがその他ほとんどが雪のため何らかの苦労をする。それでも最近は便利なスノースコップやスノーダンプもあって家庭や職場でも雪かきは楽になった。昔は雪が「クツカッテ/くっついて」離れない重い木製の「ユギサッテ/雪かき道具」や土木工事用の「カグスコ/角スコップ」や「ケンスコ/剣先スコップ」などで苦労しながら雪かきをやっていた。今月はそんな昔の冬を思い出してみよう。

 雪が降った朝はその量にもよるが、外の気配はやけに静かな感じがする。普段はあまり気にしていない戸外の騒音や雑音、自動車や列車の音が積もった雪に吸い込まれ吸音しているからだ。外も真っ白だからいつもより明るい感じで朝日で影になった「タルヒ/つらら」が障子に写ったりしている。布団から出て着替えを済ませ台所へ行くと「オメーモ、ユギカギー、テヅダエ/お前も雪かきを手伝え」と母親に言われる。聞けば「ヒツァカブ/膝かぶ」より深く50センチほど積もっているらしく今朝早くから町内総出で幹線道路までを雪かきしているのだという。起きてすぐ「カセガサレル/仕事をさせられる」のは不本意だが、どの程度雪が積もっているのか興味はあるわけで、仕方なく「ナガクズ/長靴(濁点がないのが宮古弁らしい)」を履いて外で出る。自宅前はすでに雪が除けられていて小山になった雪に練炭の「アグ/灰」が捨ててある。周りを見れば近所の父さんやおばさんたちがいっぱい出てせっせと「ユギガギ/雪かき」をしている。中には冬だと言うのに半袖姿になってあれこれ指示し現場監督化している人がいたりする。と思えば「ワガエー/自宅」の玄関あたりをささっとやって「ヒッコム/閉じこもる」人もいる。雪なんて時間が経てば溶けるからムキになって「ユギカギ」するまでもないと思うのだが、沿岸では久々の積雪とその量に酔ってしまい下水掃除のような共同作業の「ユイトリ/結い・労働奉仕」状態になっているのだった。現場監督化している人は「マカマカッテ/おろおろして」手を休めている人に「キエーカゲデ/気合いをかけて」ああしろ、こうしろ、ここへ集めろ…と激を飛ばす。見ればステテコ姿の背中からは熱気の湯気が「タッテ/あがって」いる。当然ながら翌日は風邪で熱を出し「ビョーインガヨイ/通院」となる。

 父親は125CCのバイクで出勤だ。思えばこの人は雨が降ろうと雪が降ろうとバイク一本であった。自転車にも、ましてや格好悪いからと乗合バスなど絶対乗らなかった。そんなわけで雪の日はバイクに専用チェーンを巻いて出勤する。しかし、毎年チェーンの初出番の日はチェーンが見つからないのだった。「オメーガドゴサガヤッタ/お前がどっかに片づけたろう」「オラ、スラネーガエ/あたしゃ知りませんね」と出勤前に一騒動起きるのが常だった。チェーンなんてそう頻繁に使うものではないからシーズンオフに一端どこかへ「スメーゴンデ/しまい込んで」しまうともう何処へ置いたか「ワッセーデ/忘れて」1年が過ぎてしまうのだった。それでも何とかチェーンが見つかりバイクの後輪にセットして雪道で左右にふらつきながら両脚を出した状態でバイクに跨り父親は7時前後に出勤してゆく。

 僕は何事か変わった異変があると「ああ学校休みになればいいな」といつも思っていた。雪の朝もそう思っているのだが、父親が出勤してすぐに登校の「オムゲー/お迎え」が来るのだった。あの頃は何だか知らないが上級生が下級生を引率して通学していた。とは言え、順番に各家を廻って引率するわけではなく決められた時間に何処かへ集まって登校した。鈴でもつけたらまるでアルプスの山羊飼い状態だ。学校までは約3キロの道程。今思うと往復徒歩6キロはキツイが友だちと遊びながら歩けば毎日が遠足みたいなもので辛かった思い出はあまりない。

 学校に着くと広い校庭も一面真っ白の雪原だ。昇降口までは最初の誰かが歩いた足跡に沿って幅50センチほどの道があってそこを歩いた。各教室の煙突からはすでにポクポクと薪ストーブの煙が立ち上りいつもの景色だ。白一面の「マツポサ/まぶしさ」に目を細めていると突然後ろから「ぼかっ」と雪玉が飛んでくる。「イェーイ/やーい」「コノーォ/このやろう」と僕もとっさに「カガマッテ/しゃがんで」急いで雪玉を作って反撃する。「トドガネーゾー/届かないぞ」と相手は逃げ回る、雪玉を持って追いかける。これを繰り返しながら身体もちょっと温かくなる。まっ、これが少年たちなりの雪のおはようの挨拶なのであった。そして休み時間になれば外へ出てお約束の雪合戦だ。もうみんなの「ナガクズ」は雪だらけで「クズスタ/靴下」はびしょびしょ。誰かが雪玉に石を入れたとか、一人だけ集中攻撃して「ズレー/ずるい」とか、背中に雪を入れられたとか、色々あるのだがそれなりに学校での楽しい時間が過ぎる。見れば真っ白だった校庭は無数の足跡だらけの斑模様になっていた。

 授業が終わって掃除の時間に、昇降口の大きな「タルヒ」を掃除の竹ぼうきで叩いて落とした。自分らのスネほどもある「ブッテー/かなり太い」獲物だった。雪の上で割れた先端部を口に入れてみたら、金属臭い変な味がした。「ウンマグネー/美味しくない」とすぐに「ホギダス/吐き出す」と周りにいた友人らも「ドラドラ/どれどれ」と破片を口に入れ「ヘンナアズ/変な味」とやはり「ホギダス」のであった。「ダーベ/だろう」と確認をとる。  粉雪が舞い散る鉛路色の空を見上げるとそんな、遠い日のなんでもない冬の思い出がむしょうに懐かしい。  

ためになる宮古弁辞典

おなごめーこ

男なのに女っぽい遊びや服をきていたり言葉遣いが女のような男。または着せ替えやままごとなどの女の子遊びばかりする男の子。

 三人姉妹の末っ子で長男だったり、近所に女の子しかいなくて遊び相手がずっと女の子だったりと幼年期の環境によって男の子なのに女っぽくなってしまう子もいますが、宮古弁の「オナゴメーコ」は本人にがナヨっとしていることよりも、女の周りに「ササッテ/入り込んで」和気あいあいとなってはしゃぐ男のことを指します。もちろん、ピンクや花柄のシャツなどを着ている人や、言葉遣いが妙に女っぽい男も「オナゴメーコ」です。しかし、宮古弁の「オナゴメーコ」という言葉には、女々しく男っぽさに欠けるという意味より、大勢の女の中に簡単に入り込んでいる男に対しての妬みや嫉妬が含まれていて「オナゴノマンナガニ、オドゴガヒトリ/大勢の女の真ん中に男が一人」という意味合いが大きいと思われます。男って本当はみんなが「オナゴメーコ」に憧れてるのでしょうか。

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