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2009/12 不健康なアタリの面々

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 近年は食生活改善と予防医学の進歩により東北特有の高血圧疾患での死亡はぐんと減った。昔は休みの日は朝から「ヤツケル/呑む」「ノンベー/大酒呑み」や、「オヒタス/おひたし」にザブザブとしょう油をかけ、しかもそれを飲み干してしまう「ソッパクズ/塩辛いの好き」、短気でささいなことですぐ「オゴステ/かんしゃくを起こして」頭から湯気をあげ大声で「オゴリズラガス/怒り散らす」ようなカミナリオヤジがたくさんいた。そんなオヤジは若い頃から良くも悪くもその地区で知られた「ゴーケヅ/豪傑」で、後に少年野球の監督をしたり、鎮守様のお祭りなどではカラオケ大会から子供樽神輿まで率先してイベントに参加し、終われば地区会館での「ナオライ/直会」でまた浴びるよう酒を飲んでは豪快に大笑いしていたものだ。しかし、そんな名物オヤジたちも寄る歳には勝てず、晩年はひとり、ふたりと軒並み「アタリ/脳卒中・中風・中気」となって入退院を繰り返すのであった。近所の「ミセヤ/雑貨屋」で町内の情報通の「オッパサン/おばさん」に最近、○○さん見ないですねーと聞いてみたら、入院先の病院では家族の顔も判らなくなって「ハー、イグベータード/もうあの世に旅だつばかりだとさ」などと聞かされると、往時の勇ましさを知っているだけに「イダマスー/痛ましい」思いと、人の人生は「ムジョイ/無情」なもんだなーとつくづく思ったりする。また、昔は今のように病後の肉体的復帰を促すリハビリなどもほとんどなかったので「アタリ」をなんとか克服しても、手元の震えが止まらなくなったような「オンツァン/叔父さん」もたくさんいたし、せっかく生活復帰したのに、家族に隠れては酒屋の「タヅモッキリ/コップ酒」を飲み、またもや「アダッテ/当たって」「アダリゲース/二度目の当たり」で倒れる人もいた。

 さて、そんな「アタリ」という病気の名称は高血圧が原因で、何らかの病気が命中したという意味だ。「命中」も「命に当たる」という意味で、中気や中風の「中」は古来から「あたる」と読み「中気」は気(精神)にあたる、「中風」は悪風(病気)にあたるという意味になる。従って宮古で言う「チューブニ、アダル」とは「悪風にあたる」という由緒ある古語的表現ということになる。病気の名称なんて風情もなにもないけれど最近よく耳にする「ノーナンカ/脳軟化症」「クモマッカ/くも膜下出血」などの病名は医学的すぎて味気ないうえ、無表情な恐怖すら感じるような気がする。

 宮古では高血圧が原因で脳血栓や脳梗塞などの疾患を呈しそれによって身体機能に支障をきたした状態の人を、その状態も病名も含めて「アタリ/当たった人」と言うのが一般的だ。「アタリ」は医学的に言うと脳血管障害で脳に栄養や酸素を供給する頭蓋内の血管(血流)に異常が発生し、出血による炎症・圧排または虚血による脳組織の障害により発症することだ。この血流異常が脳内のどこで起こるかによって「アタリ」の症状の度合いが違ってくる。軽度ならすぐに日常生活に復帰して「カルグアダッタ/軽度なアタリ」で済まされる。しかし、多少は記憶障害や言語障害などの後遺症がつきまとう。「キンノー/昨日」まで肩で風を切り、人を人とも思わなかったような風情の人が突然そんな症状を呈してしまうと気の毒で「オモッサゲネードモ/申し訳ないが」「ホーラナ、イェーゴドースター/ほらね天罰が下ったのさ」と思ってしまうこともある。

 さて「アタリ」の要因は血管の老化による動脈硬化だ。長年、不健康極まりない食生活に不摂生を繰り返してきた血管の内側は、春と秋の町内大掃除の「ドブサレー/下水掃除」で掻き揚げた「ドブドロ/汚泥」のように大量の老廃物が付着してちょっと大きなゴミが「ツッカガッタラ/つかえたら」簡単に詰まってしまう。そしてある朝突然、自分の力で「ネドゴ/床」から起き上がれないような症状が襲うのであった。「アタリ」は遺伝的に親から子へ引き継がれることが多く、血圧の高い親の子はやはり血圧が高い傾向にある。まだ若いのに痛風や高血圧を抑制する薬を飲んだりしている人は「アタリ予備軍」ということになる。

 病気は「アタリ」ばかりではない一年を通して「イデーカリー/痛い・痒い」と様々な病院に通ってその度に診療予約のカードを貰い検査、検査、検査…と「ドゴダリカズダリ/いろいろな場所」を「チョーサレ/触られ・調べられ」ていると、もしかしたら自分は重大な病気に蝕まれているのでは?肝臓?腎臓?それとも心臓?いやいや癌?と悪くもない「キーヤンデ/気を病んで」しまう。待合室の椅子で「ナニガアッタラテーヘンダ/何かあったら大変だ」身辺整理しなくちゃなぁ…などと、感傷に浸るも、翌日はいつもの飲み会、病院の検査ネタでひと盛り上がり。そう言えば「ズサマ/爺さん」は「アダッテ」「バサマ/婆さん」は「トーニョー」母親の「マギ/親戚」は癌と「ハイビョータガリ/肺病持」、父親は「アガラガオ/赤い顔」で高血圧。オレは何度も禁煙を挫折した「タバゴノミ/喫煙者」でメタボ…。ああ、この血筋が今更ながら情けない。

 この世から病気がなくなる日はきませんが「ハヤグ、オムゲーガキテケレバイイノニ/早くあの世から迎えが来ればいいのに」とか「オラーハー、ネンナイダーゴッタ/オレは年内に逝くかも」と憂いてみせるより、あなたも私も限りある日々を出来るだけ笑って過ごしましょうじゃありませんか。

 あとは潔く佐原の高台にある病院の露となって消えましょう。それじゃ、来年もクイズ宮古弁をよろしく!!

懐かしい宮古風俗辞典

【ごせぱらがやげる】

ものすごく悔しくて、不満で、納得がいかない様子。腹が立つ、妬ける様子。「ゴセッパラガヤゲル」とも言う。

 「ゴセパラガヤゲル」は「ゴセ」と「ハラ」と「ヤゲル」が合体した言葉。後半の「ハラガヤゲル」は腹が立ってその怒りの炎で内部から発熱しそうなぐらい怒りがピークに達している状態になっていることです。若者言葉の「ムカツク/ムッとする・ムカムカする」よりも過激に怒っている状態と言えます。しかもその状態に「ゴセ」を加えますと「後生」という意味が加わり、この怒りはもしもまた人に生まれ変わってっもきっと忘れられない、それほどの大きな怒りなんだぞー!という表現です。実際には「ゴセガヤゲル」という言葉で片付けられる諍いや衝突は、言葉の意味ほど重大ではないのですが、自分の怒りと不満は半端ではないのだ、という自己主張になるわけです。古今東西、人は勝手なもので自分が悪くても注意されると「コツケダリ/いこじになったり」「ムグレル/怒ったり」するものです。何事にも「ゴセパラ」を焼かず、にっこり笑って長生きしましょう。

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